sweet trap, sweet jealousy
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乱雑な室内に荒い呼吸。甘い嬌声が狭い部屋を駆け抜け、衣擦れの音の微かさがその合間を縫って聞こえてくる。
触れるたびに大きく反応してくる体が、そのすべてで目の前にいる男を求めていた。
這う手が意図を含んでいろんなところに散った性感帯を刺激する。その快感に体はもちろんのこと、精神すら融けてしまいそうだった。
緩やかに、激しく。敢えて焦らしてみたかと思えばあまりにも急な愛撫のリズムに、海堂はあっけなく快楽の渦に飲み込まれた。
抗えないくらいのスピードで――
手に吸いついてくるような肌の感触。想像以上のその手触りのよさに、乾は満足げに口元をゆがめた。
服を脱がせている間のわずかな刺激にも海堂は反応し、それにじれったさを感じたか、誘いの文句を口にして体を淫らにくねらせてくる。
はやく、と促す声が掠れて耳に心地いい。
「海堂…なにがはやく、なんだ……?」
わかりきった答えを敢えて聞いてみるが、海堂は潤んだ瞳で乾を見つめるだけでそれに答えることはしなかった。
乾はやれやれ、とため息をついて、鎖骨をくすぐっていた手を下に移動させる。すでに堅くなった胸の突起に、つつ、となぞる様に円を描いて触れると人差し指ですこしきつめにはじいた。
「あぁっ!」
その痛さと快感がない交ぜになった刺激に、海堂は思わず甲高い声をあげ、腰を跳ねさせる。それでもその気持ちよさに虜になったか、乾の与えるやさしい刺激に満足できなくなっていた。
指で押しつぶすようにこねくり回されても、唇を使ってそっと食まれても、海堂には甘い快楽としてしか認識できない。
「乾…先輩……」
なにかを求めるような意思を含んだ囁きかけ。切れ切れになって乾の耳に届く。
乾はわかっているさ、とひとつうなずくと、口に含んでいたものをきつく吸い上げた。
望みどおりの刺激に、海堂は顔を仰け反らせた。その隙に腰が浮いたことに便乗して、乾は海堂の下穿きをいとも簡単にとりのぞく。
きつい布の下で我慢していたそれは、押さえつけるものをなくして元気な様を外界に露わにした。胸から顔を外した乾は、そろそろとその唇を下に沿って進ませ、肝心なところには触れず、下腹部を意地悪く舌でつつくように舐める。
一番肝心な部分を放って、そのまわりをじわじわと攻め立てるような舌の動きに、海堂はじれながらも反抗する力が腰に入らない。
ただされるがままにその快楽に従って喘ぐのみだった。
目元を一筋の涙が重力に従って流れ落ちる。
乾はチラ、と海堂の表情を見遣って、(さすがに気の毒か…)そう考えると瞳同様涙を流す海堂の陰茎に手を這わせた。
すこし触れるだけでも大きく揺れる腰に乾は苦い笑いを漏らし、手で作った筒で緩急をつけて擦り上げる。
ようやく与えられた直接的な刺激に、海堂はもはや我を忘れたように声をあげた。
乱れる海堂に、乾も自身に余裕のなさを感じていた。
空いたほうの手で海堂の先端から溢れ出る雫を掬いとり、収斂を繰り返している後庭に塗りこむようにして指を侵入させる。
「うぁっ…ん……アッ」
濡れた指を根元まで一気に差し入れると、その急激な刺激に海堂がいっそう高い声をあげる。
「まだ一本だぞ…?そんなにきつく締めると、後が大変じゃないか……」
言って、人差し指を入れたまま少々無理やりに中指をその横に沿わせる。今度はじわりじわりと押し入るように侵入する指に、海堂はきつい締め付けを繰り返したが、奥に奥にと誘い込むように動く内壁に乾の中指も難なく奥まで辿り着いた。
すべて入りきったところで、緩やかに、時に激しく抽挿を繰り返す。
内壁を擦られる感覚に相まって、前を攻め立てる手の動きも早まる。乾の手の中の海堂のものは、もはや限界が近いことを示すまでに膨張していた。
ヌチュ、と音を立てて先端をつまむように触れると、海堂の体がひときわ大きく震え、精を放つ。
乾はそれをすべて手で受け止めると、荒い呼吸を整えようとしている海堂の目の前に、それを見せつけるようにして手の平をかざした。
「これ、海堂の。…舐める?」
からかうようなその言い方に、海堂はカッと頬を染め顔を背ける。そんな反応も乾の予想通りで、ちっとも残念そうに聞こえない声で「なんだ、残念」というと、ペロリと手の平についた粘着質の液体をねっとりと舐め上げた。
「海堂の味…。ごちそうさま」
手についたものを最後まできれいに舐め終えると、まだ中に入れたままであった指を徐に抜く。
いい具合にほぐれたそこに、先程から臨戦態勢になっていた自信のものをつつくように押し当て、まずは入り口の反応を楽しんだ。
ノックするように何度もつついては挿入のタイミングを計る。
そろそろかな、と誘い込むようにひくつく入り口にぴたりと沿わせ、腰を進めようとしたその時、突然海堂の体が強張る。
目を見開き、がば、と上体を起こしておのれの下半身と寛がれた乾の下半身を交互に見、最後に乾の顔を信じられないものを見るような目で見つめた。
「ア、アンタ…!なんだよ、これ!!なんで俺が裸でしかもそれがなんでそっちの…えっ!?」
自分の今の状況がまったく飲み込めない海堂は、混乱した頭で思いつくままの言葉をわめきちらしている。
乾は薬の効力が切れてしまったことを悟り、乱暴に舌打ちをした。
「悪いな、海堂。時間切れみたいだけど、このままやらせてもらう」
そう言うや否や、海堂の上体を手で押さえつけ、腰を無理やりに奥まで進めた。
先程十分にほぐされたとはいえ、正気に戻った海堂が体全体に力を込めている。当然のことながら挿入も容易く行われるものではなかったが、乾は敢えてそれを無視して強引に肉を押し割った。
「―――イ、タァ……ンアッ」
かなりの負担が海堂にかかっているだろう。しかし乾はそんなことを気にかける余裕がなかった。押さえつけた肩を強く握り、きつく締め付ける内壁を、自分本位とも思えるような動きで擦り上げる。
最初は衝撃と痛みに言葉もなかった海堂だが、まだ薬の効果がわずかに残っているのか、激しい抽挿に合わせるように腰を振り、あえやかな声をあげた。
「海堂…、気持ちいいのか……?」
涙に溢れた双眸を覗きこんで乾は尋ねる。だが海堂の口から漏れるのは可否の声ではなく淫らな声のみ。それは肯定の証ともとれるものだった。
流れる涙にそっと舌を這わせて、乾は激しく腰を打ちつけた。
限界が近い。
肩を押さえつけていた手を海堂の下半身に沿わせ、打ちつけるのと同じリズムで擦りたてる。
放った後、一度も触れていないそこはすでにその形を取り戻しつつあった。乾の手が上下にそれを扱く度、堅く張り詰めてまた先端から液を溢れさせる。
後ろの締め付けもよりいっそうのものとなり、乾はフィニッシュだ、とばかりにギリギリまで腰をひいて勢いよく最奥を抉るように自身を進め、その快感に猛る自身を解放させた。
激しい擦りつけと奥にあたる熱いものに、海堂も乾の手の中で果てた。
恥も外聞もなく腰を揺らして甲高い声で啼き、わけもわからないまま力なく完全に体をベッドに沈める。
乾がゆっくりと自身を引き抜くその奇妙な感覚にも、茫洋とした視線を宙に泳がせたまま耐える。
ベッドに仰向けになったまま動かない海堂をやさしく揺さぶり、その注意を自分に向けさせようと試みるが、効果はなかった。
乾はふ、と自嘲のような諦めのような息を吐き、力のはいらない海堂の体を抱き起こす。
そのまま横抱きにするようにして体を持ち上げ、階下の浴室まで移動した。
その間、一切の感覚が失われているかのようになんの抵抗も見せない海堂に乾は不安を覚えたが、あたたかいシャワーをあてるとようやくそれを認識したようにそのぬくもりを体全体で感じ取るような動きを見せた。
乾はホッと安堵のため息をつき、泡立てたソープで海堂の体を洗おうと、ボディソープのボトルに手を伸ばす。
乾が背を向けたその時、海堂が突然立ち上がってその頭をシャワーのヘッドに勢いよくぶつける。
「海堂!?」
「―――っくぅ…」
頭を押さえてその痛みをやり過ごそうとしている海堂に、乾は慌てて近寄り患部に手を這わせその状態を確かめる。
しかし海堂は乾の手を振り払い、その体を両手で押しのけた。
キッと上げられた顔は怒りと恥辱に満ち溢れ、これ以上ないというくらい激昂した視線を射抜くように乾に向けてくる。
「アンタ、どういうつもりだ!俺に…こん、な……こんなことするなんて!!」
「海堂…」
よろよろと歩み寄ってくる乾に、「近寄るな!」と釘を刺して自身の体を浴室の壁にぴたりと沿わせる。その体は衝撃か怒りかに震えていた。
握ったこぶしが骨も血管も浮き出るほどに力が込められ、空を切ったかと思うと鈍い音を立てて乾の頬にぶつけられる。
乾は避けようと思えば避けられたそれを、自ら進んであてられたように受け止めた。
切れた口の中から苦い血の味がする。
溢れるそれを乾はぐい、と口を拭うことで解消させ、再び海堂の名を呼び今度は止められても構わないといった様子でその体を抱いた。
「はな、せ――っ」
腕の中でもがく海堂を力で押さえつけ、乾は海堂の首筋に顔を埋める。
うなじを甘噛みするように吸い上げ、肌に赤い印を刻み込むと、耳元で強く腹から絞り出すような声で海堂に思いの丈をぶつけた。
「海堂…お前が好きなんだよ……。他の男のことで悩んで落ち込んでる姿なんか、みたくないんだ…っ」
壁際に追い込んで逃げ場をなくした体を押さえつけ、呆然として半開きの唇に激しい口吻を施す。海堂の口の中のすべてを侵すように舌を動かし、荒くなる吐息とともにその唾液すらも吸い取った。
海堂の手から力が抜ける。崩れ落ちそうな体を、乾は慌てて抱きとめ名残惜しそうに唇を離した。
「…好きなんて、冗談じゃねぇ……」
呟く声はその表情とは到底かけ離れたものだった。喉の奥から搾り出すような弱々しい声は、海堂の迷いが隠されているのだろうか。発した本人がその声に一番驚いている。
「好きなんて……」
繰り返し呟く海堂を、乾は頭を抱え込むようにして抱き、その言葉を奪った。
「信じられないなら信じさせる。冗談だと思うなら本気だと思わせる。俺は海堂が好きだ。これは紛れもない事実なんだよ」
誠意のこもった嘘偽りを感じさせない声で告げられ、海堂はその告白に頬を赤らめる。
放してください、と体を押しのけ、乾の手から逃れるように浴室のドアに向かった。
「海堂…」
何も言わず浴室を出、置いてあったタオルを勝手ながら拝借して体を拭く海堂を、乾はなんともいえない表情で見続けた。
これは拒絶だろうか。
誠意を示した告白に、海堂は答えをくれずただ自分を拒む腕だけを伸ばした。
(やはり無理、か……)
信じられないのならば信じさせると言った自信は虚勢だった。本当はそんな算段ありようはずがない。
肩を落として自身も浴室を出ると、タオルで身を隠した海堂に、銀に光るものを手渡した。
それは乾家の内鍵であり、それを渡したということは乾はもはや海堂を拘束する権利がないと判断したことになる。
海堂は黙ってそれを受け取り、しばらくそれを見つめていた。
ぐ、と握りなおし、衣服を置き残してある乾の自室へと無言のまま戻っていく。乾もそれに遅れて続き、ふたり沈黙の中着衣に及ぶ。
着替えを終えて荷物を手にした海堂は、部屋を出る際に乾の方をチラ、と見返してぼそりと呟いた。
「アンタの…アンタの気持ちはわからねぇけど……、信じられないわけじゃないから………」
言葉を選ぶ海堂が、言えば言うほど顔を赤らめていく様を、乾は信じられないような顔で見、出て行こうとするその腕を慌てて掴んだ。
頬を紅潮させたまま驚きに溢れた表情で乾を見上げる海堂を、再び腕の中におさめる。
「な…っ、帰るんだから、放せ…よっ」
「帰さない」
強く言われ力を込められた腕に、海堂は思わず荷物を落とした。
鈍い音を立てて床に落ちるその音をどこか遠くの物音のように感じ、海堂は乾へ抵抗しようとあげた手をそのまま下ろした。
「何もしないと誓うから…海堂。今日は泊まっていってくれ。頼む」
請われる声に微かな震え。
海堂は心に響くその言葉に我知らずうなずいていた。
頭の動きで海堂の意思を感じ取った乾は、ホッとした表情で「ありがとう」と囁いた。
その声があまりにも幸せそうだったので、海堂は今更断る気にもなれず腹を括ったように足元の荷物を壁に預ける。
(何もしないって言ってることだし…構わねぇか……)
強く拒めない自分に理由をつけるように今の状況を納得させた海堂は、大切なラケットの入ったバッグをそっと撫でるようにして置きかけた。
悪い気がしないなんだかよくわからない自分の心に気づかないふりをして、自分の分のパジャマを嬉しそうに差し出してくる乾を恥ずかしそうに見上げ、ため息をひとつ。
重苦しいでなく、どこか幸せそうで安堵に満ちた、そんなため息を。
=後日談=
昼休み。賑やかな3−6の教室に、乾の姿が見られた。
菊丸を留め置いて不二のみを廊下に呼び出した乾は、「アレ」とだけ呟いて不二を軽く睨みつける。
アレのさすものがなんであるかを悟った不二は、にっこり笑って乾の視線をはねつけた。
「ああ、どうだった?望みどおりの結果は得られたかな?」
「結果的には、な。だけど効力が短すぎないか?なんか後遺症っぽいものもあったみたいだけど」
「しかたないよ、即効性だもん。ただ後遺症っていっても10分後くらいに一回あるだけみたいだし。まぁ終わり良ければすべて良し。何か不満でもある?」
ないよね、と暗に含んだ声音で乾の反論を封じる。
乾が海堂に見せた白い錠剤。あれは不二からこっそりと手に入れた代物だった。
そういう薬はないかと話を持ちかけたら不二が勧めてきた薬は、軽めの即効性の媚薬。不二はそれを姉の伝手によって入手したのだったが、中々使う機会が得られず机の引き出しに眠らせていた。
それを今回乾が求めてきたのに便乗したわけだが、譲ってあげたといえば聞こえはいいが、早くいえば体の良い実験台なのである。
「それで、完璧にうまくまとまったわけ?」
不二は薬の代償、これくらいは聞く権利はあるよね、と強要にも近い口調で詰問する。
乾はすこし迷惑そうな顔を見せたが、にんまりする口元は隠せない。
「まぁ完璧に、とは言わないけど…。首尾は上々ってところかな」
幸せそうに語る乾に、不二は「ごちそうさま」と少々げんなりした様子で彼なりの祝辞を送る。
そう、首尾は上々。
海堂の信頼を得たとなればあとはその心を得るだけ。
今度はどんな罠を張ろうか。
乾は楽しそうに次なる計画を頭の中で思い描いていた―――
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媚薬が精神までも侵すことってあるんでしょうかねぇ…。
とりあえず前半の薫ちゃんはトリップしてるってことでよろしくお願いします。
あぁ、それにしても乾海のエロなんて初めてかいたよ…難しいですわ、清三しゃん…。
半無理矢理ではありますが、これで一応リクはクリアできたでしょうかね…。
長くなりましたが捧げます。また手直しするかもしれないけど…。
2002.2.2
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かじのさん、いや、かじの様!本っ当〜にありがとうございまする〜vvv
もう清三は貴女に足向けて眠れませんね。は〜幸せ(−w−)
これ読んでた時、かなりタイミング良く鼻血が出ました。
ここんとこ毎日鼻血を出していますが、この時はかなりの出血でした。かじの風恐るべし。
今度不二塚のイラか何かを遅らせてもらいますわ。
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